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連載
2015/06/24

外国人との向き合い方が事業を左右~進化するエシカル④ 坂口真生

fukuhara
エシカル日本

 皆さんは「難民」という言葉に対してどんなイメージをお持ちでしょうか?「日本の難民」と聞いてもピンと来るでしょうか。私はこれまで、難民に対する課題とは国際問題と捉えており、日本国内における難民の存在を意識した事はありませんでした。国内における難民の存在が認知されておらず、また実際に難民の人々に接する機会が無かったためです。そこで今回は、東京・港区で難民の自立を支援するネイルサロン「アルーシャ」を経営する岩瀬香奈子さんに、日本における難民事情とユニークな難民支援の方法についてお話を伺いました。

日本の難民の実情
 坂口「日本では、どのくらいの難民が受け入れられているのですか?」
 岩瀬氏「他国と比べてとても低いです。昨年の難民受け入れ認定数は、申請者3260名のうち6名。認定率0・2%以下というのが現実です。現在弊社のサロンに所属するネイリストは5名。彼女たちの出身国はミャンマー、フィリピン、中国などさまざまです。日本にはまだ難民に対してネガティブなイメージを持つ方が少なくなく、難民の方にお願いして大丈夫?と聞かれたりもします。実際の現場では従業員は皆お客さまと仲良くワイワイとやっており、ネイルサービスには国境が無いと実感します。」

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手に職の重要性
 坂口「日本の厳しい難民受け入れ事情の中、ネイルサロン経営を通した支援を選んだのはなぜですか?」
 岩瀬氏「難民支援する方法を考えていた時に難民の方々が作ったアクセサリーを見せていただく機会があり、その精巧さに驚きました。これならネイルもできるのではないかと思い当たったのです。元々ネイルが好きで、お店に行くだけでなく趣味で自分もやっていました。日本のネイル技術は世界でもトップクラスなので、日本で技術を習得すれば世界中どこでも通用するはずです。『手に職』を持つこととなり、難民の自立に繋がるのではないかと思いました」
若い女性を中心に社会貢献と仕事を繋げたいとエシカルビジネスを立ち上げる女性が増えていると感じます。事業継続は簡単ではありませんが、自分の好きなことを活かした事業モデルを作ることが成功のポイントなのだと思います。

ビジネスで事業家センス養う
 岩瀬氏「起業するまでは一般企業に勤めていました。大手企業に新卒入社し、営業職を経て金融系へ転職。その後もベンチャー企業立ち上げに携わったり、ヘッドハンティングの会社にも在籍しました。元々ビジネス畑でしたから、社会貢献とは言ってもビジネスとして成立しなければ継続できないという考えがありました。消費者から同情心でお金を払ってもらうのも嫌ですし。ネイル事業は収益率が高いと聞いていました。ネイル事業は在庫リスクも無く高単価。『イケる』と思いました」

文化の違いで葛藤
 坂口「従業員が難民という点で苦労したことはありますか?」
 岩瀬氏「ネイリストを育てるために研修からスタートしましたが、はじめから様々な壁にぶつかりました。仕事に対する考え方や姿勢の違いなど。サービスレベルの感覚の違いに対しては、こちらの考えを理解してもらえるまで何度も繰り返し言い続けました。日本で求められるサービスレベルは非常に高い。でもその日本のレベルを習得できれば世界に通用するネイリストになれます。民主主義の日本では自分次第で人生を変えることができる。『あなたがあなたのライフを変えるんだ』と彼女たちに言い続けています」

未来型事業モデルの発信
 坂口「今後やってみたいことはありますか」
 岩瀬氏「将来的には従業員の日本人と外国人比率を半々にし、日本人と外国人が共に働ける環境を作りたい。また、難民ネイリストと福祉施設とを繋ぐ取り組みもしたいと考えています」
 現在様々な現場で人材不足への懸念が広がっており、外国人労働者を受け入れるべき時代が遠からず訪れると思われます。外国人に慣れない日本人にとって、文化がまるで違う外国人との向き合い方は、事業の結果を大きく左右するほど重要な課題となるでしょう。そうした点でアルーシャの持つビジネスモデルやケーススタディは、未来の企業経営にとって学べる点が凝縮されているのではないでしょうか。エシカルビジネスの最前線は、進化する日本の事業モデルそのものかもしれません。

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さかぐち・まお/アッシュ・ペー・フランス株式会社 roomsエシカルエリア ディレクター

環境新聞2014年9月10日付掲載 

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