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2015/07/07

国際認証講座④~環境・社会・生物多様性・そしてエシカルヘ~山口 真奈美

fukuhara
エシカル日本

 私が幼い頃、多様な生き物が生息するアマゾンなどの熱帯林破壊がとても衝撃的で、多くの種と命がこの世界から絶滅するという事実が、とても悲しかったのを記憶している。その後環境対策が発展し、世界的な取り組みがなされているにも拘わらず、森林破壊は今もなお続いている。そしてその現状は、木材やパルプ紙の使用を主とした伐採だけではなく、別の要因も関係している。
 例えば、東南アジアではアブラヤシ農園の急速な拡大に伴い、貴重な森や絶滅が危惧されるスマトラトラが減少している。理由はアブラヤシから得られる植物油であるパーム油が、食品や化粧品・洗剤など、私たちの身近な様々な商品の原料となっており、世界中で需要が拡大、その生産のために森がアブラヤシ農園へと転換し続けているためである。
 アブラヤシは熱帯で育ち、インドネシアとマレーシアの2カ国が生産の中心で、世界のパーム油生産のおよそ85%を占めている。生産性が高く農園の単位面積あたりの収量も大きいためニーズが高い。問題点としては、森と共にトラやオラウータンなどの生息地を切り開いてしまうため、生物多様性への影響も大きく、そこで生活していた人々や働く人への社会的影響も考える必要がある。
 この問題を解決していくために、世界自然保護基金やユニリーバ等欧米企業が中心となり、2004年Roundtable on Sustainable Palm Oil (RSPO)「持続可能なパーム油のための円卓会議」が設立された。RSPOは非営利団体であり、持続可能なパーム油が基準となるようマーケットを変革することを目的としており、環境NGOなども含めてパーム油産業に関連するメンバーで運営されている。
 RSPOでは持続可能なパーム油生産のための「原則と基準」を策定しており、認証制度を導入しているが、その認証には農園認証とサプライチェーン認証 (SCCS: Supply Chain Certification System)がある。日本では生産されたパーム油を原料とし製造・流通に関わる企業が主なので、日本で初めて認証取得をしたサラヤをはじめ、主に洗剤に関係する企業が先陣を切ってSCCS認証を多く取得している。すでに洗剤や石鹸などの認証製品も世に出ているが、最近では使用量の多い食品業界でも動きが見られ、環境中期目標などで持続可能な認証原料に切り替えることを宣言する企業もあり、原料を認証油に切り替える動きが加速している。
 また世界では欧州を中心に認証油の安定的購入のために先手を打つ動きがある一方で、認証した農園からはまだ余っていて購入して欲しいという声もあり、全体としてRSPOの仕組みを育て、取り組む人々を支えることも必要である。そもそも認証は人が作ったシステムであり、最初から完璧なものは存在しない。RSPOは認証スキームとしてはまだ浅く、森林破壊を食い止めるための手段としては最低限の取り組みだと指摘するNGOも多く、彼らは企業にその上の「森林破壊ゼロ」方針やトレーサビリティー、野心的な期限の設定と行動を求めている。
 パーム油を使わないという手段もあるが、他の原料に転換した場合でもその原料にまつわる環境・社会的問題が全くないとは言い切れないのではなかろうか。根本的解決を目指し、また真摯に取り組んでいる企業が、市場から選択される時代を形成するためにも、関係メンバーが一致団結し真剣に向き合うことが必要だろう。消費者がこの問題を理解し、生活を支える製品とパーム油との繋がりを理解することは容易ではないが、日常で私たちが使用する製品が繋がっていることは間違いない。

(写真はパーム油の原料となるアブラヤシ)

やまぐち・まなみ/Control Union Japan 代表取締役

環境新聞2014年8月27日付掲載

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