エシカル日本 > 休耕田活用、洗練デザインのプロダクト開発~進化するエシカル⑥ 坂口真生
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2015/08/27

休耕田活用、洗練デザインのプロダクト開発~進化するエシカル⑥ 坂口真生

fukuhara
エシカル日本

 仕事柄、様々なエシカルブランドに出会います。もの作りの背景を聞く度に、それぞれのブランドが多種多様な方法や角度で「人や地球にやさしい」エシカルな取組みをされていることに感心します。今回ここでご紹介させていただく「FERMENSTATION ForMaison」は、私がここ最近出会った中でも、初見から最も強く興味を持ったブランドの一つです。同ブランドを展開する株式会社ファーメンステーション社長の酒井里奈(さかいりな)さんにお話を伺いました。

休耕田からエタノール
 ファーメンステーションは自らを“発酵ベンチャー”と称し、奥州産米を原料にした消臭スプレーや石鹸などのプロダクトを製造・販売をしています。その特徴の一つが、耕作放棄地や休耕田を復活させて生産した米でエタノールを製造していること。「使われていない休耕田に食べないお米を栽培して、そこからバイオエタノールをとって、そのエタノールを化粧品原料に使い、更に残りの残さも化粧品や家畜の餌として利用できます。こんな面白いことはないでしょう!」と酒井氏は明るい笑顔で話してくださいました。

デザインにこだわり
 酒井氏の推進するこのビジネスは、今年6月に日本政策投資銀行の第3回女性新ビジネスプランコンペティションで「地域イノベーション賞」を受賞。その他にもビジネス関連の賞を複数受賞するなど、国内外で高い評価を受けています。
 しかし、実は私が最初にこのブランドのプロダクトに興味を持ったのは、ビジネスモデルではなくその洗練されたデザインでした。後に酒井氏に伺ったところ、デザイナーの友人女性が酒井氏の取り組みに共感しプロダクトデザインを手掛けているとのこと。しかもその方は雑誌に紹介されるようなレベルの高い方だと聞き、妙に納得したのを覚えています(笑)。
 これはとても大切なポイントで、プロダクトデザインは「売れる」ための必須要素のひとつです。特にライフスタイルの感心や“見た目”へのこだわりが非常に高い昨今では“デザイン力”が販売するうえで決しておざなりにできない要素です。その点でファーメンステーションの商品レベルは総合的に高く、市場を開拓できる力を持っていると私は感じています。

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思い立ったら行動
 特徴ある事業を推進する酒井氏のバックグラウンドも興味深いものです。国際基督教大学(ICU)卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)やドイツ証券などに約10年間勤務。その後、外資系ベンチャー企業在籍中に「自分にしかできない」社会貢献事業に感心を持っていたところ、とのこと。「たまたまテレビで東京農業大学が発酵技術でバイオエタノールを抽出する実験をしているのを観て、これだ!と」。実際に東京農大に入学なさったというのです。
 そして、酒井氏は発酵技術の研究室に入り、当時行われていた奥州市との共同研究に携わるようになります。
 旧胆沢町(現奥州市)の農家、町役場の方々による勉強会から始まり、07年に奥州市の事業として小規模エタノール製造プラントによる実証実験が始動。プラントの運営やコンサルティングに深くかかわってきた酒井氏は、事業終了となる12年度に起業し、自社事業としてプラントなどを引き継ぎました。

地域を巻き込む展開
 一方、同社の事業は石鹸などのプロダクト生産・販売だけではありません。県内の牧場や奥州市内の養鶏農家に対し、エタノール製造過程で発生する残さを良質な発酵飼料として提供。その卵も奥州産米を与えられたブランド卵として販売されています。
 地域の人々と、奥州へ都市部の人たちを呼び込む農業体験ツアーも開催。「休耕田の再活用から発酵技術を活かした商品開発・販売、そして発酵飼料の活用からツアー企画まで、ビジネスモデル全体に関心を持つ農家や自治体の声が多く、それごと販売していきたい」とのことです。自然の土地を活かし、地域の人と繋がり、自然から生まれる原料を用い、そしてそこから都市部で戦えるプロダクトを開発・販売するというのは、まさに進化するエシカルの在り方だと思います。
 私はエシカルには“巻き込むこと”が必要と考えています。地球や人を巻き込んで共生していくことが、エシカルの源流ではないでしょうか。

さかぐち・まお/ アッシュ・ペー・フランス株式会社 roomsエシカルエリア ディレクター

環境新聞2015年11月12日付掲載

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