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2016/07/21

利他性マーケティング② 水師裕

fukuhara
エシカル日本

 心理学分野での利他性に関する研究では、他者を助けたり他者に協力したりするような利他的行動がなぜ起きるのか、またなぜそのような性質が人間に備わってきたのかが検討されてきた。また少なくはない人々が利他的行動を取ることが数多くの実証研究によって確認されている。それらの知見を見渡すと、利他性が発動するにはいくつかの条件があることが分かる。

 キーポイントになるのは相手を仲間と認識できるかどうかという問題である。これはいわゆるウチとソトの問題で、ソト側にいる相手よりもウチ側にいる相手(仲間)を大切にする傾向が人間には備わっているようだ。したがって、ソト側にいる者よりもウチ側にいる相手に対して人間は利他的になる傾向がある。反対に、ソト側にいる相手に対しては利他的行動を行使しないどころではなく、民族紛争やジェノサイドのように時には暴力で排除さえするのが人間の持つ性質である。

 ウチ側の集団は内集団(in-group)、ソト側の集団は外集団(out-group)と呼ばれる。内集団と外集団が区別される基準のひとつとして「類似性の認知」がある。出身地や所属する会社が同じであるなどの分かりやすい類似性もあるが、態度・信念・意見のような類似性もある。また、たまたまそこに居合わせて共同作業を行った経験というようなアドホックな(特定の事柄に関する)類似性もある。

 そのようなアドホックな内集団的状況においてさえも、人間はその内集団の成員に対して仲間意識を持ち援助的に振舞うが、反対にその外集団の成員には攻撃的に振舞ってしまうという興味深い心理学の研究もある。このように内集団に対して援助的に振舞うような傾向は「内集団ひいき」と呼ばれ一種のステレオタイプとも捉えられる。自分と似ているという認識が「内集団」=「我々」という認識を形成するのである。

 また、心理学では外集団の成員よりも内集団の成員に対して共感(empathy)がより強く働くとされている。共感とは、他者がある感情を体験している、もしくは体験しようとしている他者の置かれた状況を観察し、その他者の感情を感じ取ることで生起する感情的・認知的反応である。とりわけ心理学分野では、利他的行動を引き起こす要因としてこの共感が研究されてきた。つまり人間は相手に対して共感することでその相手に利他的に振舞う傾向がある。

 社会課題の解決につながる消費や環境にやさしい消費のその先には、何らかの他者が存在する。消費のその先にいる他者への想像力を消費者が持つことなしに社会や環境配慮の消費は喚起できないだろう。しかし提供者側の取り組みがいくら崇高なものであったとしても、消費者の良心や倫理性に一義的に依存する姿勢には問題がある。先に見たように、人間は誰にでも共感し利他的になれるわけではないからである。

 実際にはまず消費を通じて影響を受ける他者との類似性が消費者に認識され、内集団の認識が形成される必要がある。次に「内集団の中にいる他者」に対する共感が引き起こされることで利他的行動、つまり社会や環境配慮の消費は実行される可能性が高まる。このような利他性にまつわる心理プロセスや制約条件を理解し、これに戦略的に対応することが利他性マーケティングの姿勢である。

すいし・ゆたか/クロス・マーケティンググループ クロスラボ主席研究員/筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程

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