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連載
2016/09/27

利他性マーケティング④ 水師裕

fukuhara
エシカル日本

 ヒトの持つ利他性は、ルール違反者に対して罰を与える行動に姿を変えることがある。これは利他的罰(altruistic punishment)と呼ばれるもので、違反者を罰することを通じて、集団全体の規範や秩序に利益を与える行動である。違反者を罰するという行動自体、何らかの骨の折れること(コスト)であるので、これも一種の利他的行動と捉えることができるわけである(自分が損をして他者に利益を与える行動を利他的行動と呼ぶ)。また誰かが罰を与えてくれるなら、自分は何もしない(フリーライド)したほうがメリットは大きいという心理も働く。

  それでは、なぜヒトは利他的罰を下すのだろうか。ある心理学的な実験では、ルール違反行動(非協力的行動)をとる相手に対して、自らコストを負ってでも罰を与える傾向がヒトには備わっていることが確認されている。特に興味深いのは、実験中に観察された、利他的罰を行ったときに撮影された脳画像をみると脳の中の報酬系と呼ばれる神経系が活性化するという現象である。報酬系とは、金銭が得られたり、おいしいものを食べたりした時に快感を引き起こす神経系である。このような現象をもとに、ヒトにとって罰を与える行動は快感をともなう可能性が指摘されている。この利他的罰と快感との関係について、生物進化的な視点から以下のような解釈ができる。つまり、規範や秩序の利益のために利他的罰を行使するという傾向をもつことが、生物としてのヒトの生存に有利であったという解釈である。

 消費の場面にも様々な利他的罰が存在している。我々は日常的に、企業不祥事、ブラック企業問題、芸能人の不倫問題など、ルール違反に対する消費者によるバッシングやボイコットを目にすることができる。そして、バッシングやボイコットをしている最中の消費者の内部では快感が生起していることが推測できる。例えば、非倫理的な企業などへのバッシングがネット空間において拡大する「炎上」と呼ばれる現象がある。これを利他的罰の快感に駆動されているものと考えれば、その吹き上がりの強度への説明ができると思われる。ときに度を越した炎上の吹き上がりが観察されるが、これはヒトに埋め込まれた快感による誤作動・暴走の可能性が指摘できるかもしれない。

 企業など、売り手側の不祥事が後を絶たない。倫理的な売り手が評価され、非倫理的な売り手が退場させられるような規範や秩序を維持するためには、バッシングやボイコットの快感を促進、あるいは抑制する装置(システム)を構築する必要がある。ここにこそ、売れつづける仕組みづくりを実現するマーケティングの発想が不可欠となるだろう。

 

すいし・ゆたか/クロス・マーケティンググループ クロスラボ主席研究員/筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程

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