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インタビュー
2015/03/31

エシカルの時代へ~山本良一氏に聞く

noday
エシカル日本

 社会と環境に配慮した新たな消費スタイルとして近年注目される「エシカル消費(倫理的消費)」について、実態を把握し、普及策を検討するための専門委員会が4月、消費者庁に発足する。その委員の一人が日本エシカル推進協議会の代表を務める山本良一氏(東京大学名誉教授)だ。大量生産・大量消費の時代から、持続可能な社会へ導くエシカル生産・消費の時代へ――。山本氏は倫理的な観点によるビジネスや政策の見直しが必要と訴えている。

 

――新たに消費者庁に倫理的消費調査委員会が設置される。
 「消費者庁の長官直属の研究会として設置される。自由な立場から調査を行う。初めての取り組みだ」
――設置の背景は。
 「日本エシカル推進協議会を昨年5月に設立した。協議会のメンバーの中に何人も消費者問題の専門家がいらっしゃる。そちらから協議会設立の動きが消費者庁に伝えられ、倫理的消費の委員会を作ろうとなった」
――将来的な法制度化などの目標はあるのか。
 「10年先になるか分からないが、私はエシカル消費推進基本法ができると良いなと思っている。すぐにでもできるのは、エシカル消費アワード。当協議会か、その他でも良いが、どこかで賞を出すと良いと思う」
――法律とは別に普及しようと。
 「グリーン購入ネットワークが今、グリーン購入大賞を出している。同じように、もっと広い見地からできれば」

倫理的な問題を解決するために
――エシカル消費に注目するようになったのはなぜか。
 「私の反省がある。20年間、グリーンイノベーションやエコデザインなど、エコプロダクツを社会に普及させようとしてきた。ところが、2012年に地球環境サミット(リオ+20)が開かれ、環境問題の解決と社会的な問題の解決は同時に進めていかなければいけないと、極めて明確に打ち出された。これからは、社会的な問題を同時に解決する、ソーシャルイノベーションやBOPビジネス、CSR、CSVなども同時にやらないといけないという気持ちになった。それを受けて、国際グリーン購入ネットワークに『エシカル消費』の研究会を作った。
 また、20年に東京オリンピック・パラリンピックが決まった。その前のロンドン五輪はエシカルなオリンピックであり、『大変だ』と思った。環境にも人にも優しいオリンピックを目指していた。20年の東京五輪では、それを上回る規模で実行しないといけない。そうすると、エシカル消費の問題は喫緊の課題だと。それを機にエシカル推進協議会を設立した。
 原発再稼働の問題もある。エネルギーの選択も、倫理的に考えないといけない。我々はどうしても目先の問題でいろいろな判断をしてしまうが、長期的な政策決定、社会的な決定をしていかないといけない。そのためには、倫理的な検討を十分に加えて国民が良く考えて決断できなければ道を誤る。エシカル推進協議会は単にエシカル消費を推進するのではなく、いろいろな意味でのエシカルな問題を議論できればと思っている」

次世代につけを残さない
――エネルギー問題をどのように考えているのか。
 「後世につけを残さないエネルギーしか使ってはいけない。自然エネルギーを地産地消で使うのがもっともエシカルだ。ただ、そこに転換するには時間がかかる。目先の問題としては大量に化石燃料を輸入しているので、『トランジション・マネジメント』をしないといけない。日本のエネルギー構造の現実から、地産地消のエネルギーに向けて少しずつ転換させていくということ。そのための管理が必要だ」
――エシカルはあらゆる問題に対して選択する指針になるということか。
 「将来の世代につけを残さないということだ。具体的に社会的な問題を解決しながら環境の改善にもなっているようなビジネスや技術開発をしていくべきだ。受け身ではなく、積極的にそうすることが重要だ」

「先義後利」「三方よし」の精神
――すでに積極的に環境や社会課題に取り組んでいるとする企業にはどのように訴えるべきか。
 「エシカル消費の歴史を調べていて改めて思うのは、『昔はやっていた』ということ。江戸時代のころは『先義後利』の考え方があった。『利他心』という言葉もある。日本の長寿企業の社訓にそうした言葉が書き込まれており、『三方よし』にもつながる。
 地域の持続可能性を考えると、そうした企業が栄えるのは当然だ。社会を維持するために努力している企業は当然繁栄する。小さな社会であればなおのことそう。ところが1950年以降、高度経済成長期が始まり、グローバルな市場経済に組み込まれると、誰も製品の背景が分からなくなった。科学技術も発展し、消費者は半信半疑になっている。製造法を知り、誰が作っているか分かる、そうした安心感がまったくなくなった。だから今、さまざまな問題が発生している。それを取り戻すのがエシカルだ」


地球の限界に直面
――市場経済自体が倫理と遠い存在に考えられるが、伝わるだろうか。
 「経済学者アダム・スミスは、『国富論』の前に『道徳感情論』を書いている。アダム・スミスの構想の中には、エシカルな考えが入っている。ただ、1800年から『人間の世紀(アントロポセン)』が始まった。
 産業革命が起き、1950年から第2ステージに入る。経済協力開発機構(OECD)が高度経済成長を始めた頃だ。21世紀に入り、我々は第3ステージに入っている。今や新興国が経済成長を始めている。2050年には人類が95億人になると言われる中、このままの勢いでやっていけば、地球の限界に激突してしまうのは明らかだ。
 だから今、エシカル消費やエシカルビジネス、エシカルマネジメントに戻らないと大変なことになるということ。今、人類は未曽有の危機に直面している。そういう認識だ」

エシカル社会への分岐点
――好むと好まざるにかかわらず、戻るしかないと。
 「地球システム科学の研究者や環境科学者はそのように考えているが、実は、社会学者や消費文化の研究者、マーケティングをする人も同じような見方をしている。消費文化や消費社会の観点でも、エシカルに変わりつつあると」
――社会が成熟してきたということか。
 「人類は時とともに学んでいる。集団で学んでいる。倫理も進歩している。日本エシカル推進協議会で年表を作っているが、これを見ると2010年以降、急激に世界が動いていると分かる。この流れを見れば、消費者庁が来年度調査委員会を設立するのは必然と考えられる。つまり、集団で試行錯誤して、集団で学んで、社会は急激にエシカルの方向へ変わりつつある」

東京五輪をエシカル五輪に
――そのために、まずは東京五輪での普及を目指すと。
 「エシカル五輪にしたい。また、2020年に東京をエシカルタウンにしたいと都に要望書を提出している。
というのも、この20年には2つの大きな流れがある。1つはエコタウンや環境未来都市など。またもう一つは、福祉都市宣言やフェアトレードタウンなどがある。まさに、環境と社会の2つの流れがあり、それを統合しないといけない。それをエシカルタウンと名付けた。
 東京は環境配慮を進めてきた石原慎太郎元都知事と、福祉政策を進める舛添要一都知事の流を汲めば、実質上その方向に動いていると言える。世界に先駆けて『エシカルタウンを目指す』と打ち出すべきだ」
――東京から発信することで、地方都市への普及も見込める。
 「東京五輪は絶好のチャンス。ものすごく大きな宣伝の場所になる。東京がエシカルタウンとなり、エシカルオリンピック・パラリンピックを実行し、包括的な戦略を打ち出せば、ものすごい情報発信力になる。
というのも、世界は都市化の方向にある。巨大な都市がどんどんできているなか、目指すべき都市の明確なビジョンと、戦略の模範を与えることになる」

道徳と法律の中心領域
――「エシカル」は大きな言葉で、始めようにも何に取り組めば良いのかわかりづらいのでは。
 「『倫理』という言葉に対して誤解がある。道徳(Moral)、倫理(Ethics)、法律(Law)を分けて考えないといけないと思っている。道徳は人によって小集団ごとにいろいろな価値観があるが、倫理は違う。個人にはいろいろな考えがあるけれども、何が正義で何が善か、普遍的な社会的規範がある。
 例えば今、地球に限界がある。世界の平均気温が4~6℃上昇すれば大変なことになるというのは価値観の問題ではない。倫理の問題だ。
 このまま地球温暖化が進めば、途上国は大変な犠牲を払わないといけない。地球の気候を守らなければいけないというのは、普遍的な倫理だ。また、電気もつかない1日1ドル以下の生活などあってはならない。これも倫理の問題だ。だが一方でまだ法律にはなっていない。
 法律は国家権力による強制力がある。さまざまな価値観と法律の真ん中に倫理があるということだ。
 我々は、倫理に立って問題を長期的見地から対処しないといけない。大気中に長期間残留する温室効果ガスを出し続けたり、核のごみを出し続けて将来世代に押し付けることは許されない。倫理はいずれ法律にしていかないといけないが、まずはその観点で生産消費やビジネスを見直さないといけないということ」

エシカルイノベーションを推進
――エシカルを推進していくに当たって、今必要なことは。
 「我々の消費社会がどのように進んできたか、はっきり整理しないといけない。世界には膨大な取り組みがあり、それをリスト化して見せることが一番重要だと思う。方法が分かれば、模倣し、それを上回ろうという気持ちが起きてくるはず。エシカル消費行動の1千の事例を作る、というようなことが必要だろう。エシカルビジネス、エシカルイノベーションを推進していきたい」

環境新聞2015年1月28日付掲載

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