エシカル日本 > 多様性が焦点、障害者福祉からヒント~進化するエシカル⑨ 坂口真生
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2016/03/17

多様性が焦点、障害者福祉からヒント~進化するエシカル⑨ 坂口真生

fukuhara
エシカル日本

 今回お話を伺ったのは、特定非営利活動法人ピープルデザイン研究所代表理事の須藤シンジ氏。須藤氏は従来型の福祉の対局に位置付ける「ピープルデザイン」という新たな概念を掲げ、障害の有無にかかわらずオシャレできるアイテムの開発や、障害者を街に呼び込むさまざまなイベントなどを多数プロデュースしています。「心のバリアフリーをクリエイティブに解決すること」――。須藤氏はピープルデザインの定義をこう語ります。心のバリアフリーとは何か、どうしたらそのバリアは取り除くことができるのか、須藤氏にお聞きしました。

 須藤氏「心のバリアは気づかないうちに日本人に植え付けられているものなのです。今年で20歳になる私の次男は重度の脳性麻痺で生まれました。初めて福祉の行政サービスを受ける当事者になった時に、いかに日本の社会が障害者と健常者を分けて考え生活しているのかを痛感しました」

違いを個性に帰るデザイン
 坂口「今までに数多くのユニークな製品をデザイン、販売していますね」
 須藤氏「2002年に世界で活躍するクリエイティブ・ディレクターを中心にファッション、インテリアデザイン、スポーツ、エンターテインメントの分野を通して意識のバリアを壊し、皆が当たり前のように混ざり合う社会を実現するためのプロジェクト『NEXTIDEVOLUTION(ネクスタイド・エヴォリューション)』を立ち上げました。
 手足にまひがある次男が履くための靴は障害者向けのものしか無く『ダサイ」と言わざるを得ない状況を変えようと、アシックスの協力を得てかっこいいデザインのスニーカーを作りました。他にも障害者も使用が楽なデザインにこだわった雨グッズシリーズなど、100名を越えるクリエーターと共にコラボレーションしたデザインを発表しました」

「超・福祉展」を提案
 坂口「それらはいわゆる、ユニバーサルデザイン製品ということですか?」
 須藤氏「我々はユニバーサルデザイン製品とは定義していません。同じ年齢の男性を100人集めても体型や好みはそれぞれ違います。みんなにとって使いやすいという発想のユニバーサルデザインというのはある意味矛盾があるのです。
 私たちはみんなが違う、という考えからスタートします。障害者がマイナスで健常者がいるゼロのラインに近づける『ノーマライゼーション』ではなく、皆がゼロのラインに立っていて、それぞれ違う人が混ざっているのが当たり前という状況を作っていこうという提案なのです。これが『ダイバーシティー』、つまり人々の多様性であり、先進国のスタンダードな価値観だと思います」
 昨年11月※には、ピープルデザインが手掛けた新たな趣向の福祉機器展「超・福祉展」が初開催され、大きな反響を呼びました。
 須藤氏「超・福祉展は心のバリアをどうフリーにするか、異なる者とのコミュニケーションをいかに創っていくかということをテーマに20年の東京オリンピック・パラリンピックを想定し、日本の未来像を一般の人たちと共感してもらうためのものでした。おかげさまで大きな反響をいただき、カナダや、中国、シンガポールからもお客さんがいらっしゃいました」

ダイバーシティーの街づくりへ
 須藤氏「少子高齢化は確実に進み、医療費や年金制度が破綻しつつある世の中で求められる福祉とは何か。心のバリアが根付く日本社会に新たな流れをどうやって作れるか、さまざまなアプローチで提唱したいと思っています」
 須藤氏はピープルデザインの観点に基づき、街づくりにも積極的に参画。川崎市と包括協定を結び、市制100周年となる2024年に向けたダイバーシティーの街づくりを支援されています。さらにはスポーツやイベント会場などで障害者の雇用機会を創出するなど、さまざまな取り組みを進められています。
 須藤氏のこれまでの活動や未来のビジョンの話を聞き、新たな気づきのかたちが生まれ繋がることでパラダイム・シフトが起こる可能性を感じています。
 違いは個性、ハンディは可能性、という須藤氏が掲げるコピーは、エシカルの定義に内包される社会貢献に深い意味を持ちます。エシカルブランドは原料調達や生産そして販売に至るまで様々なハンディがありますが、それをマイナスでは無くプラスと考える意志こそが進化に繋がる力となるでしょう。そしてその背景を素直に受け入れられる懐深い社会こそ「カッコいい」のです。世界に恥じない社会とは何か、自らの言動を改めて見つめ直す時期ではないでしょうか。

※昨年11月…2014年11月に開催された「超・福祉展」のこと。2015年11月には名称を変更し、「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」として開催された

さかぐち・まお/アッシュ・ペー・フランス株式会社 roomsエシカルエリア ディレクター

2015年2月11日付環境新聞掲載

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