エシカル日本 > 背景へのまなざし育てるエシカル教育~進化するエシカル⑪ 坂口真生
連載
2016/04/12

背景へのまなざし育てるエシカル教育~進化するエシカル⑪ 坂口真生

fukuhara
エシカル日本

 エシカル・ファッションとは、オシャレを楽しみながら、環境や社会への貢献にも繋がる新しい消費スタイルです。私は服飾小売業界の中でエシカル・ファッションを広げる様々な施策を試みていますが、現場レベルではエシカルへの注目は高まる気運をみせています。しかし、今後より大きな広がりを作るためには多岐に渡るアプローチや多様な業界を巻き込んでの発展が不可欠となります。今回は、この新しい消費スタイルを高校の教育に取り入れ、エシカル・ファッションを題材にユニークな教育実践を行っている例をご紹介します。
 「“エシカル消費”はこれからの社会を担う世代の消費行動に関わる重要な鍵」と、お茶の水女子大学附属高校教諭の葭内ありさ氏は話します。葭内氏はエシカルの認知度がほとんどなかった2011年、国内で初めてエシカル・ファッションを高校の家庭科の授業で取り上げ、それ以降も毎年「エシカル消費」のアパレル分野の取り組みである「エシカル・ファッション」を糸口に、生徒に消費の“背景”へのまなざしを育てようと様々なアプローチ方法で消費者教育を行っています。
 「まずは授業を通じて、目の前の商品がどこで誰が作ったかなどの“背景”に気付かせること。実体験を通じた学習を通じて“自分ごと化”することと、学んだことを周りの人に伝えるアウトプットが大切」そう話す葭内氏の授業はとにかく体験型。例えば授業では生徒が実際に製作したファッションカタログを用いて、ワークショップを行います。そこで製品の「背景」の存在に気付かせることで衣服がどのように作られ消費者の手元に届くのかを経験させます。一方的な情報の押しつけではなく、生徒の自発性を引き出す効果的なきっかけ作りを巧みに取り入れているのです。
 「生徒にアンケートを取ると、洋服を買うときに作り手のことまでは考えていません。安くてかわいくて、自分の好みであればそれでいいという態度が大半です」と葭内氏は話します。一方で、生産過程の中に環境汚染や児童労働などのグローバルな課題があるのが実態です。現代社会でその背景への視点の育成は必須であり、今後の社会を担う世代の消費行動にかかわる重要な鍵を握るのがエシカル消費だと強調します。

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 葭内氏の実践的な授業の幅は広く、環境展示会「エコプロダクツ」のステージで高校生にプレゼンテーションを行わせたり、秋の文化祭では生徒が自作した藍染め服とエシカルブランドを連携させて国際NGOプラン・ジャパンの途上国女子支援キャンペーンと組んだチャリティーエシカル・ファッションショーなども行っています。また、さまざまなエシカル・ファッション企業の代表者を授業に招いた講演を実施するなど、キャリア教育として生徒の学びを深める取り組みをされています。
 こうした体験は生徒にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。「学校でNGOと組みフリーマッケットを企画するなど、すぐに行動に移したり、進路を決定したりする生徒がいます。また、ずいぶん経ってから『あのときの授業がきっかけだった』と手紙をくれる生徒もいます」と葭内氏。また、「どのようなアクションをどんな場所やタイミングで起こすかは生徒それぞれ。いつの日かその種が開花するのをじっと待つのが教育の意味ではないでしょうか」その言葉がとても印象に残っています。日本のエシカル市場が今後より広がるためには、多様多彩なエシカルブランドが立ち上がり、成功事例を積み重ねることが重要です。優秀な人材がエシカル業界に集まり支え底上げしてくれる事を私も切に願うばかりです。
 葭内氏が編集委員を務めた東京書籍の家庭科教科書には日本で初めてエシカル・ファッションについてのコラムや記事が掲載されました。この教科書は全国でシェア1位となっているとのことで、今後全国の先生方がエシカル消費を教材に取り上げ、より多くの高校生がエシカル消費について学ぶ機会が増えると期待されます。
 発展途上のエシカル・ファッション業界は、それぞれのブランドやメディア、そして団体などが点と点で活動している現状があります。これからはその点と点が線となり、持続可能な社会への絵を明確にしていく必要があります。そのためにエシカルマインドをより多くの人が持つ時代を作ることが重要です。そうした意味で、教育を通したエシカルの普及は非常に大きな役割を果たすことでしょう。

さかぐち・まお/アッシュ・ペー・フランス株式会社 roomsエシカルエリア ディレクター

環境新聞2015年4月8日付に掲載

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