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2016/08/30

「レア・アース仮説」とエシカル消費(全3回 後編) 山本良一

fukuhara
エシカル日本

3.地球倫理に基づくエシカル消費

 矢嶋直規によれば、倫理の環境的転回が必要である。新たな環境倫理の三原則は自然中心主義、世代間倫理、地球全体主義である。人間の活動は自然の循環的な生態系に依存しつつ、生態系の自律性と調和的に行わなければならない(自然中心主義)。

 人間の活動の総体としての最高目的は、現時点での功利の最大化ではなく、地球共同体の安定的持続でなければならない(世代間倫理)、また人間の活動の自由を正当化する「危害原則」は個人においても国家においても、自然との調和と行為の安定的持続を基準として判定され、国境を越えて適用される(地球全体主義)。

 一方、倫理は自然選択によって社会的組織化の手段として進化したとも考えられている。社会が進化すれば倫理も並行して進化する。氏族においては自己犠牲が、部族においては贈与経済が、国民国家では愛国心が、地球村では普遍的な人間の権利が、すべての生命の家(地球生命圏あるいは生物コミュニティ)では地球倫理・環境倫理が要求されるのである。

 ベアド・キャリコットによれば地球倫理は生物コミュニティへの攪乱が通常の時間とスケールであれば容認されるが、そうでないならば容認されない。地球生命圏へ非可逆的で深刻な影響を及ぼす人間活動は地球倫理によれば認められないのである。人類は今や非可逆的な地球温暖化、資源の枯渇化、生物多様性の減少を引き起こしているのであって、地球倫理によればこのような行動は容認されないのである。

 それでは人間活動は地球生命圏へどれ程のインパクトを及ぼしているのであろうか。バクラフ・スミルによれば今や人間の総重量はすべての動物の体重の30%を占め、家畜の重量は67%を占めている。400~10,000年前には年間人口増加速度は6.7万人であったものが、今や7,700万人に達している。

 雪や氷に覆われていない地球の土地の43%が農地、市街地に転換された。2025年には世界人口は82億人に達し、その時地表の土地の50%が状態を変化させるであろう。化石燃料の燃焼により大気中のCO2濃度は産業革命以前と比べて35%増加した。産業革命以前に280ppmだったCO2濃度は今や400ppmに達している。

 既に地球温暖化の進行により地球の平均気温は産業革命前と比較して1℃上昇した。国際社会は2015年12月に締結したパリ協定で気温の上昇を2℃以下、できれば1.5℃以下に抑制することで合意した。2016年1月から6月までの半年間の世界の平均気温は昨年に比べて0.2℃(NOAA)~0.3℃(NASA)上昇したと報じられている。これは地球温暖化の加速化を意味している。

 一方、CO2濃度280ppmで既に次の氷河期の到来は5万年後に遅れ、今や次の10万年は到来しないと考えられている。また海洋がCO2を吸収して急激に酸性化し、この20年間でPHが0.05低下して、海洋生態系に大きな影響を及ぼしつつある。2008年のモナコ宣言で155名の海洋生物学者は世界に早急な対応を求めた。

 ロンドン自然史博物館のアンディ・パービスらの最新の研究によれば、世界人口の71.4%の住む世界の土地の58.1%で生物多様性が危険なレベルにまで減少していると報告されている。古生物学者のアンソニー・バルノスキーとエリザベス・ハドリーは“終局(End Game)”を2015年に出版し、20年以内に社会的にも環境的にも世界は破局に陥る可能性があると警告している。

 地球生態系に深刻な影響が出始めている一方で、南北格差や様々な社会的問題が山積している。ホモ・サビエンスは奇跡の惑星の持続可能性のために今こそ渾身の力を発揮しなければならない。

 “行きては到る水窮まる処、坐しては看る雲起るの時” この夏季休暇には読者は様々なパワースポットに旅行されるかもしれない。和歌山の那智の滝、出羽三山、須崎の鳴無神社などが有名である。しかしそれらのパワースポットの向こう側には奇跡の惑星地球があることを忘れないでいただきたい。

 この膨張する宇宙の中で、ブラックホールに呑み込まれず、超新星爆発やガンマ線バーストの影響も受けず生命と文明を育んできた奇跡の惑星、地球こそが宇宙のパワースポットであり、ご神体なのである。地球は私たちにとって聖なる場所であり、寺院であり、モスクであり、大聖堂であり、すべての生命の家なのである。

 これこそがエシカル消費を実践するための倫理的基礎であると筆者は心から固く信じているがいかがであろうか。

 

写真は和歌山県「那智の滝」、著者はパワースポットの例として高知県・室戸岬の不動岩や山形県の出羽三山なども挙げている。

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