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2017/04/11

国際認証講座・第二部 ~持続可能な社会とエシカル、認証のその先へ~⑨ 山口 真奈美

fukuhara
エシカル日本

 

 企業の経営判断が環境や社会に及ぼす影響は計り知れない。サプライチェーン上のリスクと認証について度々触れているが、先日、ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム=The CONSUMER GOODS FORUM(CGF)の会合でサステナビリティをテーマにしたJapan Dayが開催された。

 CGFは世界70か国から小売業者、メーカー、サービスプロバイダーなど合わせて400社に上る会員数と関連企業のCEOや経営者参加する、グローバルな消費財流通業界のネットワークである。〝Better lives through better business〟(より良いビジネスを通してより良い暮らしを)というビジョンを掲げ、様々な専門家と共にプロジェクトやワーキンググループ、ワークショップやイベントなども開催している。食品や流通業界の団体として大きな影響力があり、持続可能なサプライチェーンのためのグローバル・ソーシャル・コンプライアンス・プログラム(GSCP)の他、食品安全に関するグローバル・フード・セーフティ・イニシアチブ(GFSI)によりベンチマークされ承認された認証スキームなどもあり、国際認証との関係も深い。

 先日4月に開催されたJapan Dayでは、80社を超える経営層が集まり、パーム油についての発表がなされた。CGFは森林破壊ゼロを達成するために、持続可能なパーム油の調達を促してきたが、日本での取り組みは特に欧州に比べて遅れをとっていると言われている。RSPO(持続可能なパーム油の円卓会議)についても同様であり、取り組むメリットよりも、取り組まないことによるデメリットや調達リスクについての議論も必要だと痛感している。

 そもそも森林破壊とパーム油との関係について、知らない方がほとんどであろう。そして、自社が取り扱っている製品の原料がそもそも何なのか、どのような場所やルートで調達されているのか把握が決して容易ではない現状もあり、そこに環境社会的リスクが潜んでいる事実や、永続的に調達できる可能性の有無、そして、NGO等指摘を受けて初めて事実を確認する作業がようやくスタートする。

 Japan Dayでは、CGFのサステナビリティ・ピラー・責任者のイグナシオ・ギャビラン氏の基調講演の他、「パーム油の持続可能な調達について」WWFジャパンの筒井隆司事務局長と共に、味の素、花王、グリーン購入ネットワークが登壇し、それぞれの想いや取り組みが発表された。花王執行役員の田中秀輝氏からは、社長宛のNGOからの質問状がきっかけだったという報告がなされ、環境やCSR担当者の問題のみならず、購買部門が調達について真剣に考え取り組む必要性と、社を動かした経緯と経験から、経営者の判断がどれだけ社内を動かすのに大きな力になるのかを伝えていた。

 多くの経営層に向けてその後押しの重要性と理解が社会にとって、さらに地球環境問題の解決に向けた取り組みに大きな一歩を踏み出すきっかけになることが伝わったであろう。

 認証システムだけに依存することは根本的解決にはならない。しかし今なにもせずに取り組まない理由だけを並べて今起きている事実を直視せず、対岸の火事ではなく自分達のリスクにも繋がっているということを、少しでもイメージを膨らませて考えていかなくてはならない。そして自社だけでは困難な部分について、他社の取り組みや協働でできることを模索しながら、共に一歩前へ進めていくことが今求められつつある。

 CGFではそのシンポジウムのみならず、何からどのように取り組んだらよいのか、知ってもらい行動に移すためのワークショップを開催予定だ。パーム油に関係するこのワークショップの他、秋にはRSPO関係で大きなイベントが日本で開催予定であり、サプライチェーン上流の農園の問題が、日本でも商品や消費者に大きな繋がりがあることが垣間見え始めている。

 グリーン購入ネットワークが事務局を務める「パーム油グリーン購入研究会」では、「持続可能なパーム油のガイダンス(日本版)」を発行した。このようなガイダンスや、「生物多様性に配慮した企業の原材料調達推進ガイド」(一社)企業と生物と生物多様性イニシアティブ(JBJB)発行のガイドなどを活用しつつ、まだ取り組みが不十分だと感じるのであれば、関係者と連携しながら一歩を踏み出すのは今絶好の機会かもしれない。

やまぐち・まなみ/Ethical Life Advisor

環境新聞2016年5月25日付掲載

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